ジャズ・ピアノと聞いて、多くの日本人が真っ先に思い浮かべる名前。
彼が1961年にニューヨークのジャズクラブ「ヴィレッジ・ヴァンガード」で録音した『Waltz for Debby(ワルツ・フォー・デビイ)』は、ジャズというジャンルの枠を超え、永遠のベストセラーとして聴き継がれています。
しかし、そのレコードの価値は、プレスされた時期や国によって、天と地ほど異なります。
例えば、1962年に発売された当時のオリジナル盤。状態が良いものであれば、数十万円という驚くべき価格で取引されます。
一方で、1970年代や80年代に再発された盤であれば、数千円で手に入ります。ジャケットのデザインは全く同じでも、そこにはコレクターにしか分からない「決定的な違い」と「価格差」が存在するのです。
- 「実家のレコード棚に『Waltz for Debby』があったけれど、これは高いものなのだろうか?」
- 「青いラベルの『Portrait in Jazz』を持っているが、オリジナルかどうかわからない」
この記事では、年間数万枚のレコードを査定する買取のプロが、ビル・エヴァンスのレコードがなぜ世界中で求められているのか、その背景から、リバーサイド4部作のオリジナル盤を正確に見分けるための「ラベル」「溝(DG)」「盤質」の知識まで、徹底的に解説します。
これを読めば、あなたの手元にあるビル・エヴァンスのレコードの「本当の価値」がわかるはずです。
日本で最も愛される「ピアノの詩人」ビル・エヴァンス
- Bill Evans(ビル・エヴァンス / 1929-1980)
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1929年、アメリカ・ニュージャージー州生まれ。「ジャズ・ピアノの詩人」と称される彼は、クラシックの素養に基づいた繊細なタッチと、和声(ハーモニー)の美しさで、モダンジャズ・ピアノのスタイルを決定づけました。
なぜエヴァンスのレコードは高騰し続けるのか?
ビル・エヴァンスのレコード、特に初期の作品が高額買取される理由は、単なる知名度だけではありません。そこには3つの大きな理由があります。
① 圧倒的な「音」へのこだわり
エヴァンスのピアノは、非常に繊細でダイナミクス(強弱)の幅が広いです。
特にリバーサイド・レーベル時代の録音は、エンジニアのデイヴ・ジョーンズらによって、ピアノの響きやライブ会場の空気感までが生々しく記録されています。
オーディオマニアたちは、この「生の音」を最大限に味わうために、マスターテープに最も近い「オリジナル盤(First Press)」を血眼になって探しています。
② 天才ベーシスト、スコット・ラファロの存在
エヴァンスのキャリアにおいて、もっとも神格化されているのが、ベーシストのスコット・ラファロ(Scott LaFaro)、ドラマーのポール・モチアン(Paul Motian)と組んだトリオです。
しかし、スコット・ラファロは1961年、25歳という若さで自動車事故により急逝します。彼が参加したアルバム(いわゆるリバーサイド4部作)は、二度と再現できない奇跡の記録として、歴史的遺産級の扱いを受けています。
③ 「静寂」ゆえのコンディション難
ハードバップのような激しいジャズなら、多少のレコードノイズは気になりません。
しかし、エヴァンスの演奏は「静寂」を活かしたバラードが多いため、チリノイズ(パチパチ音)が非常に目立ちます。
そのため、「ノイズの少ない美品(Near Mint)」のオリジナル盤は、市場に出回る数が極端に少なく、価格が跳ね上がるのです。
徹底解剖!『Waltz for Debby』の真価

ジャズ・レコードの買取において、間違いなく「王様」と呼べる一枚。それが『Waltz for Debby』です。
姪のデビイに捧げた愛らしいタイトル曲、そしてライブハウスのざわめきすら音楽の一部にしてしまう演奏。
このアルバムの査定ポイントは非常に奥が深いです。
オリジナル盤(First Press)の条件
1962年発売。この時期のリバーサイド・レーベルは、デザインが青色から黒色へ移行していました。
【モノラル盤】型番:RLP 399
もっとも高額なのが、このモノラル盤です。当時はステレオへの移行期だったため、モノラル盤のプレス枚数は少なく、非常に希少です。
- ラベル: 黒色(Black Label)。上部に銀色で「RIVERSIDE」とあり、リールとマイクのロゴが描かれています。
- DG(深溝): ラベルの中央(直径約70mm付近)に深い溝(Deep Groove)があります。
- 盤質: 1960年代初期特有の、ずっしりと重い「重量盤」です。
【ステレオ盤】型番:RLP 9399
ステレオ盤も高額ですが、モノラル盤よりは相場が落ち着きます。
- ラベル: 黒色。「STEREOPHONIC」の表記があります。
- DG(深溝): こちらも深溝があるものがオリジナルとされます。
「Orpheum(オルフェウム)」盤とは?
オリジナル盤ではありませんが、よく見かけるのがこのタイプです。リバーサイド・レコードが倒産した後、1960年代中期に「Orpheum Productions」によって再発された盤です。
- 見分け方: 黒ラベルの上部に、小さく「Orpheum Productions Inc.」と書かれています。
- 価値: 買取相場は数千円〜1万円前後。オリジナルには及びませんが、音質が良く、ジャケットの紙質もしっかりしているため、十分に価値のあるレコードです。
「OJC」盤と「日本盤」
- OJC(Original Jazz Classics): 1980年代以降にアメリカで発売された復刻シリーズ。新品同様で流通していることも多く、手軽にアナログを楽しみたい層に人気です。
- 日本盤: ビクターやアイ・シー・エーなどから発売されました。特に「帯(Obi)」が残っている日本盤は、海外コレクターからの需要が急増しており、高価買取の対象です。
リバーサイド4部作:残り3枚の買取相場
エヴァンスの黄金期であるリバーサイド時代には、『Waltz for Debby』以外にも絶対に外せない3枚の名盤が存在します。これらもオリジナル盤は超高額です。
① 『Portrait in Jazz(ポートレイト・イン・ジャズ)』 (RLP 12-315)

名曲「枯葉(Autumn Leaves)」を収録。トリオのインタープレイが完成した記念碑的作品です。
有名な「枯葉」のイントロ、ベースがメロディを奏でる瞬間のスリルは、何度聴いても鳥肌が立ちます。
- オリジナル判定: このアルバムの発売時期(1960年)は、まだラベルが青色でした。
- 青大ラベル(Large Blue): ラベルの直径が約100mmあり、溝(DG)があるものがオリジナル。
- 青小ラベル(Small Blue): ラベルが一回り小さい(約92mm)ものはセカンドプレス(再発)です。
- 価格差: 青大と青小では、買取価格に2倍〜3倍の差が出ることがあります。
② 『Sunday at the Village Vanguard』 (RLP 376)

『Waltz for Debby』と同じ日(1961年6月25日)のライブ録音。
こちらは亡くなったスコット・ラファロを追悼する意味合いが強く、彼が作曲した「Gloria’s Step」などが収録されています。
『Waltz for Debby』が「動」なら、こちらは「静」と「緊張感」のアルバムと言えるでしょう。
- オリジナル判定:
- こちらも『Waltz〜』と同様、「黒ラベル・DGあり」がオリジナルです。
- モノラル盤(RLP 376)は特に希少で、『Waltz〜』に次ぐ高値で取引されます。
③ 『Explorations(エクスプロレイションズ)』 (RLP 351)

「イスラエル」「ナルディス」などを収録したスタジオ録音の名盤。
派手さはありませんが、トリオの洗練された美学が詰まっており、通好みのアルバムです。
- オリジナル判定:
- 「青大ラベル・DGあり」がオリジナル。
- 静謐な曲が多いため、盤質(コンディション)の良し悪しが査定額に直結します。薄いスレ傷一つで査定額が大きく変わる、非常にシビアな一枚です。
リバーサイド以降の名盤:Verve〜晩年
リバーサイドを離れた後のエヴァンスにも、高価買取必須のタイトルがあります。彼の音楽は時代と共に変化していきましたが、その美意識は一貫しています。
『Undercurrent(アンダーカレント)』 (UAJ 14003)

ギタリスト、ジム・ホールとのデュオ作品。
水に浮かぶ女性のジャケット(通称:水女)があまりにも有名で、「ジャケ買い」需要No.1のレコードです。
- レーベル: United Artists(ユナイテッド・アーティスツ)。
- 査定ポイント:
- オリジナル盤は「黒ラベル」です。
- このジャケットは黒を基調としているため、スレ(リングウェア)が非常に目立ちやすいです。「真っ黒で綺麗なジャケット」であれば、それだけで査定額は跳ね上がります。
『At The Montreux Jazz Festival』 (V6-8762)

お城のイラストジャケットで有名な、モントルー・ジャズ・フェスティバルのライブ盤。
Verve(ヴァーヴ)時代の傑作です。
ドラムにジャック・ディジョネットを迎え、エネルギッシュでアグレッシブな演奏を繰り広げています。
- 査定ポイント:
- Verveのオリジナル盤(黒地にT字ロゴなど)は音圧が高く、オーディオファンに人気です。
- 見開きジャケット(Gatefold)の状態も重要です。
『You Must Believe In Spring』 (HS 3504)

死後に発表された晩年の傑作。
Warner Bros時代の作品。ベースのエディ・ゴメス、ドラムのエリオット・ジグモンドとのトリオによる、内省的で美しい演奏です。
- 査定ポイント:
- 1980年代の作品ですが、エヴァンスの美学が凝縮されており、近年再評価が進んでいます。
- 音質が良いことで知られ、優秀録音盤としての需要があります。
世界が注目する「日本盤(Japanese Pressing)」の価値
「ジャズは輸入盤(US盤)じゃないと売れない」というのは、もはや過去の常識です。
現在、ビル・エヴァンスの日本盤(国内盤)は、その品質の高さから世界的に評価されています。
幻の「初期プレス帯」と「ペラジャケ」
ビル・エヴァンスの日本盤で最も高額なのは、1960年代初頭に日本ビクターから発売された「SR品番(SR-7015など)」の初版です。
この時期のジャケットは、裏面が折り返された薄い「ペラジャケ(Flipback Cover)」仕様になっており、そこに付いていた「初期デザインの帯」は現存数が極めて少なく、状態が良ければUSオリジナル盤に迫る価格で取引されます。
1970年代「SMJ品番」の帯
1970年代にビクターから再発された「SMJ品番」シリーズも非常に人気があります。
白地や銀地をベースにした帯で、裏面に補充票(注文カード)が付いているものは「完品」として高値がつきます。
海外コレクターは、日本盤特有のライナーノーツの充実ぶりや、盤質の良さ(ノイズの少なさ)を評価しており、帯付きであることは「日本盤としての完全性」を証明する重要な要素となります。
【ユニバーサルミュージック「高音質盤」シリーズ】
2000年代以降にユニバーサルミュージックから発売された、オーディオファン向けの限定シリーズです。
- UCJU-9000番台(200g重量盤): 2003年頃に発売。盤の厚みがすごく、圧倒的な音圧で人気です。
- 100% Pure LPシリーズ(クリアヴァイナル): 2012年頃に発売。着色料を抜いた透明な盤で、極めてクリアな音質が特徴。
これらは「完全生産限定」だったため、現在は定価の数倍のプレミア価格で買取されています。「帯」や「シール」が残っている完品は特に高額です。
ビル・エヴァンスのレコードを高く売るための3つのコツ
大切なコレクションを少しでも高く売るために、以下のポイントを押さえておきましょう。
① 盤質(ノイズ)のチェック
前述の通り、エヴァンスのレコードは「静寂」が命です。
深いキズ(針飛びするもの)は大幅な減額対象になりますが、表面的な薄いスレであれば、クリーニングで改善する場合もあります。
無理に自分で拭こうとせず、そのままの状態でお持ちください。TU-Fieldでは専用のクリーニングマシンを使用し、レコードのポテンシャルを最大限に引き出してから査定します。
② 付属品の完備
日本盤の場合、「帯」の有無が査定額の50%以上を占めることもあります。
また、解説書(ライナーノーツ)も重要な資料です。これらが揃っている「完品」であれば、高額査定が確実になります。
③ 「ジャズ専門店」を選ぶこと
これが最も重要です。ビル・エヴァンスの「青大ラベル」と「青小ラベル」の違いや、「DG(深溝)」の重要性を理解していない総合リサイクルショップでは、すべて「古いレコード」として数百円で処理されてしまう可能性があります。
現在の世界的な相場トレンドを熟知した専門店(TU-Field)に依頼することが、適正価格で売るための唯一の方法です。
まとめ:ビル・エヴァンスのレコードは「今」が売り時
ビル・エヴァンスのレコードは、リバーサイドのオリジナル盤から、帯付きの日本盤まで、非常に幅広い層に需要があります。
特に円安の影響もあり、海外バイヤーからの問い合わせが殺到している「今」が、もっとも高く売れるタイミングと言えます。
- 「Waltz for Debbyの黒いラベルを持っている」
- 「青いラベルのPortrait in Jazzがある」
- 「円帯の付いた日本盤をまとめて売りたい」
- 「遺品整理で大量のジャズレコードが出てきた」
もし、そのようなレコードをお持ちでしたら、ぜひTU-Fieldにご相談ください。
エヴァンス特有の「盤質」へのこだわりや、ラベルの微細な違いを正確に鑑定し、あなたのコレクションを「次の世代へ繋ぐ架け橋」として、大切に買取させていただきます。
